十九日 月曜日
下宿の虐待は至れり尽せりである。今朝は九時頃起きた。顔を洗って
きても火鉢に火もない。一人で床を上げた。マッチで煙草をのんでいると、
子供が廊下を行く。言いつけて、火と湯をもらう。二十分も経ってから飯を
持ってきた。シャモジがない。ベルを押した。来ない。また押した。来ない。
よほど経ってからおつねがそれを持ってきて、もの言わずに投げるように
置いて行った。味噌汁は冷たくなっている。
窓の下にコブの木の花が咲いている。昔々、まだ渋民の寺にいたころ、
よくあの木の枝を切ってはパイプをこしらえたものだっけ!
女中などが失敬な素振りをすると、予はいつでも、「フン、あの畜生!
俺が金をみんな払って、そして、奴等にも金をくれてやったら、どんな顔
をしておべっかを使いやがるだろう!」と思う。しかし、考えてみると、いつ
その時代が俺に来るのだ?
「小使豊吉」後に「坂牛君の手紙」と題を改めて書き出したが、五行も書
かぬうちに十二時になって社に出かけた。
変ったことなし、老小説家三島老人が何かと予に親しみたがってる様子
が面白い。給仕の小林は、「あなたがスバルという雑誌に小説をお書きに
なったのは何月ですか?」と聞いていたっけ。
帰ってきて、「坂牛君の手紙」をローマ字で書き出したが、十時頃には
頭が疲れてしまった。
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十九日は内容の少ない1日でしたね。
それにしても12時になって出社って重役出勤だなぁw
でも女中の失敬なそぶりはおそらく啄木が失敬だから、そのお返し
なんだろうなぁと思いました。
丁寧な対応をしていたら、いつも金欠でもそんなにひどい対応には
ならない気がする。しかもそれを虐待ってww啄木面白い。