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その17 石川啄木 ローマ字日記 Part17

二十二日 木曜日
昨夜早く寝たので、今日は六時頃に起きた。そして歌を作った。晴れた日

が午後になって曇った。
夜、金田一君と語り、歌を作り、十時頃また金田一君の部屋へ行って、作

った歌を読んで大笑い、さんざんふざけ散らして、大騒ぎをし、帰って来て寝た。

二十三日 金曜日
六時半頃に起きて洗面所に行くと、金田一君が便所で挨拶されたという

十九番の部屋の美人が今しも顔を洗って出てゆくところ。遅かった由良之助!

その女の使った金だらいで顔を洗って、「何だ、バカなことをしやがるな!」と心の中。

歌を作る。予が自由自在に駆使することの出来るのは歌ばかりかと思うと、いい

心持ではない。

十一時ごろから雨が降り出した。社では木村、前川の両老人が休んだので

第一版の校了まで煙草ものめぬ忙しさ。

帰る頃からバカに寒くなってきた。それに腹がへっているので電車の中で膝小僧

が震えた。中学時代の知人長沼君に会った。生白い大きな顔に、高帽をかぶって、

今風の会社員か役人風のスタイルをして、どうやら子供のありそうな横柄な様子だ。

こいつどうせ来る奴でないからと番地を書いて名刺をくれてやった。

近頃電車の中でよく昔の知人に会う。昨日も数寄屋橋で降りる時、出口に近く腰か

けていた角帯の青年、「失礼ですが貴方は盛岡にいらしった石・・・」
「そうです、石川です。」
「私は柴内・・・」
柴内薫、あの可愛かった子供! どこにいると聞いたら、赤坂の多田・・・もとの盛岡

中学の校長・・の家にいると言った。こっちの住所は教える暇もなく予は降りてしまった。
金田一君はしきりに明日のレクチュアの草稿をつくっているらしい。予は帰って来て

飯が済むとすぐとりかかった歌を作り始めた。この間からの分を合わせて、十二時頃

までかかって七十首にして、「莫復問七十首」と題して快く寝た。こころよき疲れなる

かな息もつかず仕事をしたる後のこの疲れ。

何に限らず一日暇なく仕事をしたあとの心持は例うるものもなく楽しい。人生の真の

深い意味は蓋しここにあるのだろう!

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どうも啄木は早起きの日は調子がいいようですね。

この2日間は絶好調に見える。

美人の使ったたらいで顔を洗おうとするのは、まあ中二病ならありえること。さすがに

今の僕はそんな事やる気も起きませんがw中二の頃ならやったかなぁ・・・。

当時はやはり電車に乗るのはレアだったのかもしれませんね。岩手の仲間に2度も

会うなんて、今の時代ではありえないと思います。

「余は歌しか詠めない」ではなく、「余は歌が詠める」。たったこれだけで幸福感って

劇的に変わる。ほんととてもわずかな事で変わるんですよね。

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