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その3 石川啄木 ローマ字日記 Part4

九日 金曜日

桜は九分の咲き。暖かな、おだやかな全く春らしい日で、空は遠く花曇りにかすんだ。おととい来た時は何とも思わなかった智恵子さんのハガキを見ていると、なぜかたまらないほど恋しくなってきた。「人の妻にならぬ前に、たった一度でいいから会いたい!」そう思った。

智恵子さん! なんといい名前だろう! あのしとやかな、そして軽やかな、いかにも若い女らしい歩きぶり! さわやかな声!二人の話をしたのはたった二度だ。一度は大竹校長の家で、予が解職願いを持って行った時。一度は谷地頭やちがしらの、あのエビ色の窓かけのかかった窓のある部屋で――そうだ、予が「あこがれ」を持って行った時だ。どちらも函館でのことだ。

ああ! 別れてからもう二十ヶ月になる!

昨夜のことを金田一君に話してしまった。無論そのために友の心に起こった低気圧は一日や二日で消えまい。今日一日何だか元気がなかった。といって、友は別にお清に恋してるわけでは無論ない。が、予のようにこのことを面白がりはしなかったのは事実だ。男は若園という奴なことはすぐ知れた。彼は夜九時頃になって発って行った。お清との別れの言葉は金田一君と共にこの部屋にいて聞いた。その模様では、何でも渡辺という姓の男との張り合いから、一人残って・・・手に入れる決心をしたものらしい。男の発った後、女はすぐ鼻唄を歌いながら立ち働いていた。

社では今日第一版が早く済んで、五時頃に帰って来た。

夜、出たくてたまらぬのを無理におさえてみた。帰りの電車の中で、去年の春別れたまま会わぬ京子によく似た子供を見た。ゴムダマの笛を「ピーイ」と鳴らしては予の方を見て、恥ずかしげに笑って顔を隠し隠しした。予は抱いてやりたいほど可愛く思った。その子の母な人は、また、その顔の形が、予の老いたる母の若かった頃はたぶんこんなだったろうと思われるほど鼻、頬、眼……顔一体が似ていた。そして、あまり上品な顔ではなかった!

乳のように甘い春の夜だ! 釧路の小奴・・・坪仁子からなつかしい手紙がきた。遠くで蛙かわずの声がする。ああ初蛙! 蛙の声で思い出すのは、五年前の尾崎先生の品川の家の庭、それから、今は九戸の海岸にいる堀田秀子さん!

枕の上で今月の「中央公論」の小説を読む。

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啄木、決して不遇ではないですね。人生楽しんでる。奥さんがいても心の中で恋愛もしてる。アイロニカルで人が悪く、金にだらしなく、女にだらしないが、おそらくだからいい作品が書けた。このパラドックスこそが人間なのだと思います。思いっきり濁ると思いっきり純粋にもフォーカスすることができる。あの「働けど・・・」が今の僕らにインパクトを与えているのも、彼の没入感がリアルだからだと思います。

それにしても、この手紙のやり取りはどうやって行ったのだろう。。ファンレターからですかね。。。しかもすべて女性とのやり取りだけ、というのが本能に殉じている彼らしくて素敵。もし僕が余命1年と今言われたら、啄木ライフに切り替えるかもしれませんねw資産5000万全部1年で使い切る(妻子は家と遺族年金があればやっていけるはず)。そうなったら、まず今すぐ仕事辞めるな。で、夏は札幌、それ以外全部父島で過ごす。日本版ヘミングウェイになって、一日中酒浸りで海と共に生きる。ああ、妄想するだけ幸せ・・・w

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