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その8 石川啄木 ローマ字日記 Part8

(十日の続き)

すでに人のいない所へ行くことも出来ず、さればといって、何一つ

満足を得ることもできぬ。人生そのものの苦痛に耐え得ず、人生そ

のものをどうすることもできぬ。すべてが束縛だ、そして重い責任が

ある。どうすればよいのだ? ハムレットは、「To be,or,not to be?」

と言った。しかし今の世では、死という問題はハムレットの時代より

ももっと複雑になった。ああ、イリア! "Three of them"の中のイリア!

イリアの企ては人間の企て得る最大の企てであった! 彼は人生

から脱出せんとした、否、脱出した。そしてあらん限りの力を以て、

人生・・・我らのこの人生から限りなき暗黒の道へ駆け出した。そして

、石の壁のために頭を粉砕して死んでしまった! ああ!
イリアは独身者であった。予はいつでもそう思う。イリアはうらやま

しくも独身者であった! 悲しきイリアと予との相違はここだ!

予は今疲れている。そして安心を求めている。その安心とはどんな

ものか? どこにあるのか? 苦痛を知らぬ昔の白い心には百年経

っても帰ることができぬ。安心はどこにある?

「病気をしたい。」この希望は永いこと予の頭の中にひそんでいる。病

気! 人の厭うこの言葉は、予には故郷の山の名のようになつかしく

聞こえる!・・・ああ、あらゆる責任を解除した自由の生活! 我らが

それを得るの道は、ただ病気あるのみだ!

「みんな死んでくれればいい。」そう思っても誰も死なぬ。「みんなが俺

を敵にしてくれればいい。」そう思っても誰も別段敵にもしてくれぬ、友

達はみんな俺を憐れんでいる。ああ!なぜ予は人に愛されるのか?

なぜ予は人を心から憎むことができぬか? 愛されるということは耐え

がたい侮辱だ!

しかし予は疲れた! 予は弱者だ!

一年ばかりの間、いや、一月でも、
一週間でも、三日でもいい、
神よ、もしあるなら、ああ、神よ
私の願いはこれだけだ、どうか、
身体をどこか少しこわしてくれ、痛くても
かまわない、どうか病気さしてくれ!
ああ! どうか・・・

真っ白な、柔らかな、そして
身体がふうわりとどこまでも・・・
安心の谷の底までも沈んでゆくような布団の上に、いや、
養老院の古畳の上でもいい、
なんにも考えずに、(そのまま死んでも   惜しくはない!)

ゆっくりと寝てみたい!
手足を誰か来て盗んで行っても
知らずにいるほどゆっくり寝てみたい!

どうだろう! その気持ちは? ああ、
想像するだけでも眠くなるようだ! 今着ている
この着物を・・・重い、重いこの責任の着物を
脱ぎ捨ててしまったら。(ああ、うっとりする!)
私のこのからだが水素のように
ふうわりと軽くなって、
高い、高い、大空へ飛んでゆくかもしれない!

・・・「雲雀だ。」
下ではみんながそう言うかも知れない! ああ!
死だ! 死だ! 私の願いはこれ
たった一つだ! ああ!

あっ、あっ、ほんとに殺すのか? 待ってくれ、
ありがたい神様、あ、ちょっと!

ほんの少し、パンを買うだけだ、五-五-五銭でもいい!
殺すくらいのお慈悲があるなら!

雨を含んだ生暖かい風邪の吹く晩だ。遠くに蛙の声がする。
光子から旭川に行ったというハガキが来た。名前は何でも、妹は外

国人の居候だ! 兄は花盛りの都にいて、袖口の切れた綿入れを着

ている! 妹は北海道の真ん中に六尺の雪に埋もれて讃美歌を歌っ

ている!
午前三時、ハラハラと雨が落ちてきた。

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ようやく十日が終わりました。。。

まあ啄木にとってこの日は本当にたくさん苦しんだ1日だったんでしょうね。

最後の死にたい死にたいは4年後に叶ってしまいます。

僕は死にたくない、死にたくない、と思うようにしようと思いますw

僕は生まれつき心房中隔欠損兼僧帽弁膜不全症(心臓病)を持って

産まれたので、中学卒業時に手術するまでずっと病弱でした。だから

ほんと健康が一番だなぁ、睡眠が一番だなぁ、と思います。

僕は

・健康

・睡眠

・多少の蓄財

さえ満たされていれば僕は安全であると決める、と自分と契約を交わした

のですが、啄木は蓄財以外は満たされていたし、蓄財だって倹約さえ

すれば満たせたはず。やっぱり最高を目指すよりも満足を目指すことが

大事だなぁとつくづく思った次第です。

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