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その11 石川啄木 ローマ字日記 Part11

十三日 火曜日

朝早くちょっと眼を覚ました時、女中が方々の雨戸をくっている

音を聞いた。そのほかには何も聞かなかった。そしてそのまま

また眠ってしまって、不覚の春の眠りを十一時近くまでも貪った。

花曇りしたのどかな日。満都の花はそろそろ散り始めるであろう。

おつねが来て、窓ガラスをきれいに拭いてくれた。

老いたる母から悲しき手紙がきた。

「このあいだみやざきさまにおくられしおてがみでは、なんとも

よろこびおり、こんにちかこんにちかとまちおり、はやしがつに

なりました。いままでおよばないもりやまかないいたしおり、

ひにましきようこおがり、わたくしのちからでかでることおよび

かねます。そちらへよぶことはできませんか? ぜひおんしら

せくなされたくねがいます。このあいだむいかなのかのかぜ

あめつよく、うちにあめもり、おるところなく、かなしみに、きよう

こおぼいたちくらし、なんのあわれなこととおもいます。しがつ

ふつかよりきようこかぜをひき、いまだなおらず、せつこは、

あさはちじで、ごじかろくじかまでかえらず。おつかさんと

なかれ、なんともこまります。それにいまはこづかいなし。

いちえんでもよろしくそろ。なんとかはやくおくりくなされたく

ねがいます。おまえのつごうはなんにちごろよびくださるか?

ぜひしらせてくれよ。へんじなきときはこちらしまい、みな

まえりますからそのしたくなされませ。

はこだてにおられませんから、これだけもうしあげまいらせそろ。
かしこ。
しがつここのか。かつより。
いしかわさま。」

ヨボヨボした平仮名の、仮名違いだらけな母の手紙!

予でなければ何人)といえどもこの手紙を読み得る人はある

まい! 母が幼かった時は、かの盛岡仙北町)の寺子屋で、第一

の秀才だったという。それが一たびわが父に嫁して以来四十年

の間、母はおそらく一度も手紙を書いたことがなかったろう。

予の初めて受け取った母の手紙は、おととしの夏のそれで

あった。予は母一人を故郷に残して函館に行った。老いたる

母はかの厭わしき渋民にいたたまらなくなって、忘れ果てていた

平仮名を思い出して予に悲しき手紙を送った! その後予は、

去年の初め釧路にいて、小樽からの母の手紙を受け取った。

東京に出てからの五本目の手紙が今日きたのだ。初めの頃

からみると間違いも少ないし、字もうまくなってきた。それが悲

しい! ああ! 母の手紙!

今日は予にとって決して幸福な日ではなかった。起きた時は、

何となく寝過ごしたけだるさはあるものの、どことなく気がのん

びりして、身体中の血のめぐりのよどみなくすみやかなるを感

じた。しかしそれもちょっとのことであった。予の心は母の手紙

を読んだ時から、もう、さわやかではなかった。いろいろの考え

が浮かんだ。

頭は何かこう、春の圧迫というようなものを感じて、自分の考え

そのものまでが、ただもうまだるっこしい。「どうせ予にはこの重い

責任を果たすアテがない。・・・むしろ早く絶望してしまいたい。」

こんな事が考えられた。

そうだ! 三十回位の新聞小説を書こう。それなら或いは案外

早く金になるかもしれない!

頭がまとまらない。電車の切符が一枚しかない。とうとう今日は

社を休むことにした。

貸本屋が来たけれど、六銭の金がなかった。そして、「空中戦争」

という本を借りて読んだ。

新しき都の基礎
やがて世界の戦は来らん!
フェニックスのごとき空中軍艦が空に群れて、
その下にあらゆる都府が毀たれん!
戦は長く続かん! 人々の半ばは骨となるならん!
しかる後、哀れ、しかる後、我らの
「新しき都」はいずこに建つべきか!
滅びたる歴史の上にか! 思考と愛の上にか? 否、否。
土の上に。然り、土のうえに。何の・・・夫婦という
定まりも区別もなき空気の中に。
果てしれぬ蒼き、蒼き空のもとに!

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啄木のお母さんの手紙。はっきりと理解はできないのですが、

・奥さんの節子さんは1日中働いて家にいない

・お母さんが娘さん(きょうこちゃん)のお世話をしている

・きょうこちゃんが風邪をこじらせた

・小遣いがないから仕送りしてくれ

・そっちにいくからいつが都合がいいか教えてくれ

こんな感じかなぁと。

で、啄木は「重い!無理だよ!」的な悲鳴を上げている。

そんな感じですよね。

啄木のダメンズぶりは、解決策として、

「そうだ、新聞で連載小説を書こう!」

と考えるところ。夢を見るのは素晴らしいですが、家族の

生活が困るくらい困窮している時にすべきことは、まず

安定した収入を得ること。

彼は新聞社で働いているので、倹約してしっかり新聞社

でハードワークする、余裕があればそのうえで副業する、

だと思います。

でも彼は倹約できない。。。金がないのが分かってるのに

貸本屋から本を借りる。。。

ただなぁ・・・悲しいかな、おそらくなんですけど、この刹那

的な生き方、節子さん、そこに惹かれたのかもしれない

ですね。だとしたら典型的なダメンズウォーカー。

僕が啄木の上司だったら、多分彼を諭して諭して、で

ローマ字日記に「俗物」って書かれてるんだろうなぁ、

そう思いますねw

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