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その19 石川啄木 ローマ字日記 Part19

二十五日 日曜日

予の現在の興味は唯一つある。それは社に行って二時間も三時間も

息もつかずに校正することだ。手が空くと頭が何となく空虚を感ずる。

時間が長くのみ思える。はじめ予の心を踊り立たした輪転機の響きも、

今では馴れてしまって強くは耳に響かない。今朝これを考えて悲しくなった。

予はすべてのものに興味を失っていきつつあるのではあるまいか?

すべてに興味を失うということは、即ちすべてから失われるということだ。

"I have had lost from everything!" こういう時期がもし予に来たら!
「駆け足をして息が切れたのだ。俺は今並み足で歩いている、」と予は

昨晩友に語った。
今日は砲兵工廠の大煙突が煙を吐いていない。

社に行って月給を受け取った。現金七円と十八円の前借証。

先月は二十五円の顔を見ただけで佐藤さんに返してしまい、結局一文

も持って帰ることが出来なかったが・・・

日曜だから第一版だけで予は帰った。そして四時頃駿河台の与謝野氏

を訪ねた。主人は俳優養成所の芝居を見に行って留守だったが、二階で

晶子さんと話していると吉井君が来た。平山良子の話が出た。

晶子さんは、今度の短歌号に出る与謝野氏の歌は物議を醸しそうだと

言う。どうしてですと言うと、「こないだ二人で喧嘩したんですよ。ウチが、

あなた、七瀬ばっかり可愛がって八峰を、どうしてなんですか、

大層いじめるんでございますよ。あんまりいじめるもんですからますます

神経が弱って泣くもんですからね、こないだ一週間だけ叱らない約束して

もらったんですが、それをねえ、またピシャピシャ顔をぶつもんですから、

わたしそんなに子供をいじめられるなら家へ帰りますと言うと怒りまして

ねえ。それを今度の歌に作ったんでございますの。『妻に捨てられた』とか

何とかいろんなのがありますのよ。」

「ハ、ハ、ハ! そうですか。」
「それから、あの、山川さんがおなくなりになりましたよ。」
「山川さんが・・・!」
「ええ、・・・今月の十五日に・・・」
薄幸なる女詩人山川登美子女史は遂に死んだのか?!
・・・!
与謝野氏が帰って来て間もなく予は辞した。何やらの話の続きで

「ハ、ハ、ハ」と笑いながら外に出て予は、二三歩歩いて「チェ、」と舌打ち

した。「よし! 彼らと僕とは違ってるのだ。フン! 見ていやがれ、バカ

ヤロ!」

電車の二十回券を買った。
頭が少し痛い。金田一君を誘って散歩に出かけた。本郷三丁目で、
「どこへ行きます?」
「そう!」
坂本行きの乗換切符を切らせて吉原へ行った。金田一君には二度目

か三度目だが、予は生まれて初めてこの不夜城に足を入れた。しかし

思ったより広くもなく、たまげる程のこともなかった。廓の中をひと巡り

廻った。さすがに美しいには美しい。

角海老の大時計が十時を打って間もなく予らはその花のような廓を

出て、車で浅草まで来た。塔下苑を歩こうかと言い出したが、二人とも

興味がなくなっていたので、そして、バカに空腹を感じていたので、と

ある牛肉屋に上って飯を食った。そうして十二時少し過ぎに帰って来た。
「夜眼を覚ますと雨だれの音が何だか隣室のさざめごとのようで、美しい

人が枕元にいるような・・・縹渺たる心地になることがある、」というような

ことを金田一君が言い出した。
「縹渺たる心地!」と予は言った。「私はそんな心地を忘れてから何年に

なるかわからない!」
友はまた、「私もいつか是非あそこへ行ってみたい」というようなことを言った。
「大にいい!」と予は言った。「行った方がいいですよ。そして結婚したら

どうです?」
「相手さえあればいつでも。だが結婚したらあんな所へ行かなくてもいい

かも知れませんね!」
「そうじゃない。僕はやっぱり行った方がいいと思う。」
「そうですねえ!」
「なんですねえ、浅草は、いわば、単に肉欲の満足を得るところだから、相手

がつまりはどんな奴でも構わないが、吉原なら僕はやはり美しい女と寝たい。

あそこには歴史的連想がある。一帯が美術的だ。・・・華美を尽した部屋の中

で、燃え立つような紅絹裏もみうらの、寝ると身体が沈むような布団に寝て、

蘭灯影濃やかなる所、縹渺たる気持ちからフト眼をあくと、枕元に美しい女が

行儀よく座っている・・・いいじゃありませんか?」
「ああ、堪らなくなる!」
「吉原へ行ったら美人でなきゃいけませんよ。浅草ならまた何でもかんでも

肉体の発育のいい、オーガンの完全な奴でなければいけない・・・」
二人は一時間近くもその「縹渺たる気持ち」や、盛岡のある女学生で吉原

にいるという久慈某のことを語って寝た。

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まあ金田一君との会話を聞いていると、啄木は吉原童貞だけど、浅草は

結構行っていたようですね。浅草なら「相手はどんな奴でも構わない」と

いうのも、浅草の女性に失礼な気が。。。

与謝野鉄幹が戻ってきたら、すぐに席を立つというのも啄木らしいというか。

お姉さんと喧嘩してる旦那に嫉妬してる、そういうの気持ちがすごい分かり

やすいですね。もしくは鉄幹のグループを余程啄木は嫌っていたのか。

まあ、晶子姐さんと話すのはとても好き、というのはよくわかりますねw

それにしても、いつ読んでも「これが24歳の若者の思うことか?!」と

思います。。。僕の24の頃は社会人2年目。仕事で精一杯でしたねぇ。。。

P.S.

今日はソフトバンクのネットワーク障害が東京全土を襲っており、

我が家も被害を終日こうむりました。。。そのため、仕事も効率が

上がらず、午後はネカフェへ移動。ブログも各余裕がなかったので、

今日はこの記事だけで終わりにします。

多分、明日一杯書きます!

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