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その23 石川啄木 ローマ字日記 Part23

二日 日曜日

お竹が来て起した。「あのね、石川さん、旦那が今お出かけになるところで、

どうでしょうか、聞いて来いって!」
「あーあ、そうだ。昨夜はあんまり遅かったから、そのまま寝た、」と言いながら、

予は眠い眼をこすりながら財布を出して二十円だけやった。「後はまた十日

ごろまでに、」「そうですか!」とお竹は冷やかな、しかし賢こそうな眼をして

言った。「そんなら貴方そのことをご自分で帳場におっしゃって下さいません

か? 私どもはただもう叱られてばかりいますから、」
予はそのまま寝返りを打ってしまった。
「あーあ、昨夜は面白かった!」

九時頃であった。小さい女中が来て、「岩本さんという方がおいでになりま

した、」と言う。岩本! はてな?

起きて床を上げて、呼び入れると果たしてそれは渋民の役場の助役の息子

・・・実君であった。宿を同しくしたという徳島県生まれの一青年を連れて来た。

実君は横浜にいるおばさんを頼って来たのだが、二週間置いてもらった後、

国までの旅費をくれて、出されたのだという。それで、国へは帰りたくなく、是非

東京で何か職に就くつもりで三日前に神田のとある宿屋についたが、今日まで

予の住所が知れぬので苦心したという。も一人の清水という方は、これもやはり

家と喧嘩して飛び出して来たとのこと。

夏の虫は火に迷って飛び込んで死ぬ。この人達も都会というものに幻惑されて

何も知らずに飛び込んで来た人達だ。やがて焼け死ぬか、逃げ出すか。二つに

一つは免れまい。予は異様なる悲しみを覚えた。

予はその無謀について何の忠告もせず、「焦るな。のんきになれ」ということを

繰り返して言った。この人達の前途にはきっと自殺したくなる時期が来ると思った

からだ。実君は二円三十銭。清水は一円八十銭しか持っていなかった。

清水君と予とは何の関係もない。二人一緒にでは今後実君を救うとき困るかも

知れぬ。しかし予はその正直らしい顔の心細げな表情を見てはこのまま別れさせ

るには忍びなかった。
「宿屋の方はどうしてあるんです? いつでも出られますか?」
「出られます。昨夜払ってしまったんです・・・今日は是非どうかするつもりだった

んです。」
「それじゃ・・・とにかくどっか下宿を探さなくてはならん。」
十時半頃予は二人を連れて出かけた。そして方々探した上で、弓町二ノ八

豊鳴館という下宿を見つけ、六畳一間に二人、八円五十銭ずつの約束を決め、

手附として予は一円だけ女将に渡した。

それから例の天ぷら屋へ行って三人で飯を食い、予は社を休むことにして、

清水を宿へ荷物を取りにやり、予は実君を連れて新橋のステーションまで、

そこに預けてあるという荷物を受け取りに行った。二人が引き返して来た時は

清水はもう来ていた。予は三時ごろ迄そこでいろいろ話をして帰って来た。

予の財布はカラになった。

今日予が実君から聞かされた渋民の話は予にとっては耐え難きまでいろいろ

の記憶を呼び起させるものであった。小学校では和久井校長と信子さんとの間

に妙な関係が出来、職員室でヤキモチ喧嘩をしたこともあるという。そして去年

やめてしまった信子さんは、どうやら腹が大きくなっていて、近ごろは少し気が

変だという噂もあるとか!

沼田清民氏は家宅侵入罪で処刑を受け、三ヵ年の刑の執行猶予を得てると

いう。そのほかの人達の噂、一つとして予の心をときめかせぬものはなかった。

・・・我が「蛍の女、」いそ子も今は医者の弟の妻になって弘前にいるという!

予の小説鳥影はまた案外故郷の人に知られているとのことだ。
夜、予は岩本の父に手紙を書こうとした。何故か書けなかった。札幌の智恵子

さんに書こうとしたがそれも書けず、窓を開くと柔らかな夜風が熱した頬を撫でて、

カーブにきしる電車の響きの底から故郷のことが眼に浮んだ。

三日 月曜日
社には病気届をやって、一日寝て暮した。お竹の奴バカに虐待する。今日は

一日火も持って来ない。すみちゃんがチョイチョイ来ては罪のないことをしゃべって

行く。それをらくちゃんの奴め、胡散臭そうな目をして見て行く。

イヤな日! 絶望した人のように疲れきった人のように、重い、頭を枕にのせて

・・・客は皆断らせた。

四日 火曜日
今日も休む。今日は一日ペンを握っていた。「鎖門一日」を書いてやめ、「追想」

を書いてやめ、「面白い男?」を書いてやめ、「少年時の追想」を書いてやめた。

それだけ予の頭が動揺していた。遂に予はペンを投げ出した。そして早く寝た。

眠られなかったのは無論である。

夕方であった、並木が来たっけ。それから岩本と清水がちょっと来て行った。

やっぱり予はのんきなことばかり並べてやった。

五日 水曜日
今日も休む。
書いて、書いて、とうとう纏めかねて、「手を見つつ」という散文を一つ書き上げた

のが、もう夕方。前橋の麗藻れいそう社へ送る。

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ローマ字日記。エンディングが近づいています。

啄木がもう完全に飽きてます。

この4日の日記は「仮病日記」。

それにしても類友ってあるんですね。。。

25円(12万5000円)会社から前借した啄木君。すぐに20円をつけ返済。

家出少年岩本君、清水君が啄木を頼りに来る。啄木は二人のことをかなり

案じているが、啄木に身を寄せている時点でもう危なすぎる。

二人とも1万くらいの手持ちで家を飛び出している。ありえない。

そして、そんな二人を助けられる状態ではない啄木は二人の宿を手配し、

手付金の自腹を切る。ほんとこの男。どうしてこういうことができるのだろうか。。。

まあ僕には図れないスケールの男なのは間違いありません。

3日~5日はすべて仮病で仕事を休み、物書きに没頭。当時はこれで

首にならなかったんですね。。。出版社の校正作業って忙しいだろうに、

これで首にならないなんて、やっぱり昔はよかったなぁ。。。

5日に散文を1日で書き上げてるようですが、確かに調子がいいとエッセイ

なら1日で50ページくらいは書きあがりますね。でも書いてすぐに出版社

に送るというのはこれまた大したものだなぁ。。。僕はすぐ書き終えても

その日のテンションを考慮して必ず次の日以降に読み直します。

すると、大抵その日のテンションの高さに気づくんですよね。ああ、ここは

読者置き去りにしてる、ここもボリューム調整しよう。そうやって後日

微調整してます。書いてすぐに出版、状態はこのブログだけですw

ブログはほとんどノーチェックで公開してしまうので、結構誤字もあると

思いますね。。。

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